第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
悟は淡々と言いながら、ほんの一瞬、指先が震えていた。
「術師になるってことは、危険の方に足を踏み入れるってことだ。仁美には向いてない。」
「向いてないって……。」
仁美の声は少しだけ震えた。
悟は顔をそらし、しかし口調は妙に冷静だった。
「仁美は優しすぎる。“反命”なんて術式、使えば使うほど自分が削れる。」
しかし悟の心中の本当の理由はそこではない。
悟は知っていた。
仁美の反転術式は未成熟で、術師として前線に立てば必ず負担が大きいと。
――そしてそれ以上に。
自分の手の届かない場所で傷つくことを、悟は想像すらしたくなかった。
「……どうしても、実践で使いたい。」
悟はすぐには答えなかった。
拒めばいい。そうすれば済む。
けれど、揺れない仁美の目に、悟は一度だけ折れた。
条件を付けた。
五条家の術師の中でも中堅。
前に出すぎない、冷静で、仁美の術式と相性のいい術式を持つ者。
そして場所は京都の五条家。