第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
二人が中学生になる頃には、身長も声も変わった。
制服も変わり、環境も変わった。
けれど――
仁美が倒れれば悟は走り、仁美の呼吸が乱れれば悟だけが整え、指で頬を撫で、軽くキスをする。
それは幼い頃からの“延長線”のように続いていた。
倒れることがほとんどなくなる頃には、仁美自身の表情にも少しずつ“余裕”が生まれ始めていた。
呼吸が整い、日常に笑顔が戻り、術式の扱いもようやく自分のものとして実感できた。
その頃からだ。
仁美が悟にこう言うようになったのは。
「もっと……術式、上手くなりたいんよ。反命も、縁火も……ちゃんと使えるようになりたい。」
悟は仁美の頬を滑らせていた手をを止めた。
「……ダメだ。」
仁美の願いをなんでも聞いてきた悟の珍しい即答だった。
仁美は驚いたように目を丸くする。
「どうして? 私、もう倒れへんよ。」
「倒れる倒れないの問題じゃない。」