第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
意識が落ちた瞬間、術式は途切れるように解け、呪印の光が一斉に沈んだ。
悟は、考えるより先に動いていた。
悟は円の中へ踏み込み、仁美の身体を抱き上げる腕に、一切の迷いはなかった。
悟は仁美の額に手を当て、呪力の乱れを確認する。
(……反命が、全部自分に返ってきてる。)
歯を食いしばるように、悟は視線を伏せた。
「……だから、止めたんだけどな。」
それでも責める言葉は続かなかった。
悟は仁美をしっかりと抱え、誰にも声をかけず、そのまま自分の部屋へ向かう。
廊下を進む足取りは早い。
けれど、抱く腕は驚くほど丁寧だった。
悟は自室のベッドに仁美をそっと寝かせた。
白いシーツに沈む身体は静かで、呼吸だけが浅く上下している。
悟はベッド脇に腰を下ろし、無意識のまま仁美の頬に触れた。
「……無茶するからだよ。」
叱るような言葉とは裏腹に、その声音には怒りも焦りもなかった。