第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
悟は仁美に対して、激しい恋慕を抱いているわけではなかった。
胸が焼けるほど焦がれるわけでも、触れたい衝動に支配されるわけでもない。
それでも――
仁美の呪力が乱れれば整え、呼吸が浅くなれば寄り添い、倒れれば抱き上げる。
それは、考える前に身体が動く行為だった。
悟は仁美の額に手を当て、慎重に呪力を流す。
多すぎず、少なすぎず。反転術式が自然に回るよう、あくまで“補助”として。
(……ほら。落ち着いてきた。)
悟はそれを確認すると、ようやく息をついた。
誰かに命じられたわけでもない。
見返りを求めているわけでもない。
ただ、仁美がここで眠っていることが、この部屋にいることが、悟にとって“当たり前”になっていただけだ。
悟はそのまま椅子を引き寄せ、ベッドの脇に腰を下ろす。
夜が更けても、悟は部屋を出なかった。
献身という言葉では軽すぎる。
恋と呼ぶには、まだ違う。
それでも悟は、仁美の傍を離れなかった。