第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
悟は一歩入った瞬間、即座に問題の所在を理解した。
(……なるほど。)
応接間の空気全体が“薄い霧”のように揺れていた。
それは呪力だ。
通常は人には見えないはずのそれが、吸い込まれるように仁美の胸元へ流れ込んでいる。
制御も遮断もできず、ただ吸収し続け、身体に負荷をかけている状態。
悟は面倒そうに息をつき、仁美の前に腰を下ろした。
「君、ちょっと手、出して。」
驚く仁美の顔。
しかし言葉の重さに逆らえず、小さく震える手を悟の方へ差し出した。
悟はその手首に軽く触れ、呪力の流れを確認する。
「……あー、やっぱりね。これじゃしんどいでしょ。」
声は軽いが、響きは柔らかく丁寧だった。
仁美の肩がほっと揺れる。
誰にも説明されなかった症状をあっさり言い当てられ、仁美の瞳にかすかな揺らぎが浮かんだ。
仁美は驚いて、悟を見上げた。
「……なんで、楽に……?」