第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
悟は笑って肩をすくめる。
「さぁ? 俺、癒やし系なんだよ。」
とぼけた声。
けれど、悟の頭の中ではもっと冷静で正確な計算が働いていた。
(――やっぱり。この子、反転術式の素質あるじゃん。)
反転術式を使えるのに、呪力量が少ないから発動しきれず、結果として外の呪力を吸っているだけで回復出来ずに身体が壊れていく状態。
ならば悟が手を握り、自分の呪力を“適度に”流し込んでやればいい。
仁美の反転術式が自然に働き、身体の負担が軽くなる。
だが、そんな理屈をわざわざ本人に言う必要はなかった。
(言ってもどうせ混乱するだけだしね。)
悟は意地悪く笑うこともしないで、ただ優しいふりをして、仁美の手を包んで見せる。
「ゆっくり息して。大丈夫だから。」
仁美は無邪気に信じてしまう。
「悟くんが……手を握ってくれるから、軽くなるんやね……。」
悟はその言葉にわずかに目を細めた。
「うん。君がそう思うなら、それでいいよ。」
――正しい理由を告げないまま。