第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
五条悟が仁美の存在を初めて知ったのは、本家の座敷で何気なく交わされた会話だった。
「神戸の財閥の娘が“呪力で倒れる”らしい。一度見てこい。……五条家との縁は作っておくべきだ。」
悟は縁側に寝転がって本を読んでいたが、その指先だけがぴたりと止まった。
「はーいはーい……はぁ。面倒くさいなぁ。」
返事は軽い。
だが命令は命令だ。
放置すれば面倒が増えることも悟はよく知っている。
軽く伸びをし、「はいはい、行きますよ」と呟いて屋敷から出ていった。
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仁美の実家は、神戸らしい瀟洒な洋館だった。
重厚な木扉、磨かれた真鍮のドアノブ、季節の花が飾られた広いエントランス。
通された応接間は、大きな窓から柔らかな光が差し込んでいる。
そして、そこにはすでに、仁美が座って待っていた。
深い肘掛け椅子に腰掛け、両手を膝の上にそっと置いて。
白い指先はわずかに震え、呼吸は浅く、頬の色は悪い。