第16章 Drastic medicine(緑谷出久 ホークス)
それからというもの、校舎の隅の件の空き教室が僕達の秘密の場所になった。
毎日放課後、そこで落ち合っては他愛もない話をして笑い合う。
そして、たまに抱き合って『好き』を確かめ合う。
だけど。
それ以上する事を彼女は許してくれなかった。
今日だって、そうだ。
少しだけ開けた窓からかすかに聞こえる、pm5:00を知らせるチャイム。
僕は、繭莉を抱きしめていた腕を少し緩めた。
「もう5時だね……帰んないと」
「ん……でも、もう少し……」
そう言って、僕の胸に顔を埋めてくる。
甘えるような繭莉の仕草が好きだ。
ふわりと香る、甘い髪の匂いが好きだ。
華奢で柔らかい身体が好きだ。
好きだから、もっと知りたい。
全部、手に入れたい。
そう思うのって、普通でしょ?
「繭莉」
僕の声に反応した繭莉が、顔を上げた。
顔を近づけようとすると、いつものように口元を手で覆われる。
「……ごめんなさい」
今日も、まだだめだった。
でも、まぁいいやなんて僕は思っていた。
別に、身体をどうこうする事が全部なわけじゃないし。
大事なのは、心だ。
「ううん、いいよ」
そう言って頭を撫でると、くすぐったそうに繭莉が微笑んだ。
……可愛いなぁ……
こんな繭莉を見れるのは、きっと僕だけなんだ。
髪にスッと指を通すと、急に繭莉がブレザーのポケットに手を突っ込んでスマホを手に取った。
誰かから連絡でも入ったのかなと思っていると、身体は自然と離れていく。
「先生、私帰らないと……」
「うん。気を付けて」
スクールバッグを肩にかけた繭莉が、僕に向き直った。
「好きよ、先生」
そう言って、また微笑む。
「僕も好きだよ、繭莉」
いつものようにそう返すと、満足したのか「また明日!」と言って教室から出て行った。
1人残った空き教室で、僕はなんとなく考えた。
どうして繭莉は、抱きしめる以上の事を拒むのだろうか。
まぁ今のままでもいいや、とも思う。
だけど正直言うと、先に進みたい気持ちもある。
男ってそういう所あるよなと思われたら確かにそうだけど、好きだから進みたいと思う。
だから、つい想像してしまう。
繭莉との、その先を。