第16章 Drastic medicine(緑谷出久 ホークス)
考えあぐねていると、繭莉がテーブルに膝をついてグッと俺の方に身を乗り出した。
「……勉強じゃなくてもいい……」
まるで、金縛りにでも遭ったかのように身体がピクリとも動かなかった。
「……教えて……」
俺の身体が動かないのをいい事に、鼻先が触れ合いそうな距離まで顔が近づく。
「……座んなさい」
「……」
とりあえず座らせようと肩に手を伸ばそうとした瞬間、その手をはしっと掴まれた。
その瞬発力はさすがヒーロー志望だ。
「私の事、嫌いですか」
そう言った繭莉の唇が、掌に触れた。
その瞬間、ドクドクと心臓の音がうるさく響いてこれは恋愛感情になるのかというこの間置いておいた気持ちに答えが出てしまった。
これは、きっと恋愛感情になるのかもしれない。
それも、暫くと言っていい程ご無沙汰の。
「この間も言ったけど、大人を揶揄わない」
「揶揄ってませんって」
突然、繭莉がぽすんと俺の胸に飛び込んできた。
「!」
俺は、思わず空いていた左腕で彼女の身体を抱いていた。
「…………」
どういう状況なんだろ、これ。
この子が俺の事好き……とか、無いよな、多分。
だってこの子からしたら俺、大分おっさんだし。
おっさんを揶揄ってるとしか思えないんだよなぁ。
「繭莉ちゃん、いい加減」
どきな、と言う前に繭莉が胸に顔を埋めたままふるふると首を横に振った。
「私の事、嫌いですか」
もう一度そう言うと、彼女は俺のシャツをきゅっと掴んだ。
嫌いじゃない。
嫌いじゃないどころか、きっとちょっとした恋愛的な好意すら覚えてる。
……どうしよ、これ……
「分かったよ、嫌いじゃないからどいて」
両肩を掴んでぐっと繭莉の身体を押すと、こちらを見上げるその目にうっすら涙が溜まっていて肩から離そうとした手がビクっと止まった。
え、なんで?
俺、なんか悪い事、した?
「嫌いじゃないなら、もう少し抱きしめて……」
まるで縋るようにそんな事を言って見つめてくる。
やっと、この子の年相応な表情を見た。
その、ちょっとした脆さが急に愛しくなってしまった。
俺は、繭莉の背中に手を回すと腕の中にその身体を閉じ込めた。
もう、後戻りなんて出来なかった。