第16章 Drastic medicine(緑谷出久 ホークス)
ちょっと呆れ気味に言うと、彼女は数式の並んだプリントに目を落としたまま「んー」と首を捻った。
「ないかな!」
きっぱりとそう言ったので、ここまで来るとある意味潔いなと思ってしまう。
「はは……でも、きみがこれから数学勉強してくんないと俺が目良さんに怒られちゃうんだけど?何を言ったんだ!って」
「ふーん…………じゃあ、」
プリントから、俺に視線を移した彼女が微笑んだ。
「数学、教えて?……たまにでいいから」
その目で見られると、なんだろう。
まだ、何も彼女の事なんか知らないのに不思議な気分になる。
「……たまになら」
まるで、心でも操られたかのようにそう言ってしまっていた。
言ってしまった後で、はっと我に返った。
……なんか、言わされた……?
嘘でしょ、怖いんだけど。
「優しいね、ホークスさんって」
「え?」
優しいって?俺?
いや、流されて言っちゃっただけなんだけど……
「好きですよ、優しいひと」
そう言って、人を不思議な気分にさせるその目を細めた。
「……」
そんな彼女の表情に、僅かに胸の鼓動が速くなってしまったのも事実で。
……なんか……
久しぶりに、こんな気分になったなぁ……
これが、恋愛感情になるのかどうかは置いといて。
おっさんに片足突っ込んだ男が女子高生相手にこんな気持ちになるのもどうかと思う。
でも、人の気持ちなんてそんなもんだから仕方ないとは思うけど。
「繭莉ちゃん……だっけ、連絡先教えて。手の空いた時、教えるから」
繭莉は、素直にスマホを取り出した。
そして、お互いの連絡先を交換すると彼女はスマホを操作しながら言った。
「寂しくなったら、いつでも連絡してきていいですよ?」
「……大人を揶揄わない……」
「揶揄ってないですよ」
スマホから目を離した繭莉が、俺の目をじっと見つめた。
「……っ……」
俺は、目を逸らす事も忘れてしばらく彼女と見つめ合ってしまった。
「……じゃあ、さよなら」
そう言うと、簡単に俺から視線を外して繭莉は部屋を出て行ってしまった。
「……なんなんだ、あの子は……」
今になって、ドッドッと心臓がうるさい程高鳴った。
どこか不思議で、少しあざとい。
それが、繭莉と少し話して抱いた印象だった。