第16章 Drastic medicine(緑谷出久 ホークス)
「んー……なんとなく」
そう言って、甘井さんは窓の桟に頬杖をついた。
なんとなく……
なんとなくで、木に登る女の子っているかな?
「そ、そっか……」
疑問を抱いたままそう返すと、振り向いた彼女がプッと吹き出したので僕は何かおかしな事でも言ってしまったんだろうかと焦った。
「こんな答えで納得しちゃうんだ、緑谷先生」
「え」
「でも、顔が言ってる。なんとなくで木に登る奴、いる?って」
「え!?」
ヤバい!
僕、そんな顔に出てた……かな!?
思わず顔を手で覆いそうになってしまった所をぱしっと手を掴まれて阻止される。
「やっぱり、思ってたんだ」
「……う……」
「緑谷先生って、面白い」
甘井さんは、僕の手に自分の細い指を絡めて上目遣いで微笑んだ。
うっ……
近い……し、可愛い……
きっと今、僕の顔は赤らんでいるかもしれない。
だけど仕方ないと思う。
こんなに、好きな子が近くにいて更に手なんか繋いでしまっているのだから。
「甘井さん、えっと……」
「緑谷先生」
甘井さんは、ふいっと僕から目線を外すと少しだけ真面目な顔をした。
「私が、もしもずっと1人だったら……」
そして、繋いでいた手にぎゅっと力が入る。
「緑谷先生、私の事……貰ってくれる……?」
その言葉を聞いた瞬間、僕は自分の耳を少し疑った。
え!?
も、貰うってつまり、それは……
か、かの、彼女に……って……事……!?
「う……うん……?」
僕は、突然そんな事を言われて舞い上がってしまったのか自分が教師だという事を一瞬忘れて頷いてしまった。
それを見た甘井さんは、なんだか今にも泣きそうなのを我慢するような笑顔を見せた。
「約束、ですよ?」
そう言うと、僕の手をそっと離して教室から出て行ってしまった。
「先生、また明日」
すれ違いざまに、その言葉だけ残して。
僕はしばらく1人で立ち尽くしていたけれど、はっと我に返った。
な、なんかヘンな約束しちゃった!
それに僕……僕……
……先生、だった……
明日甘井さんに会ったら、どんな顔しよう……?
「……はぁ……」
僕は、大きな溜息を吐いてとぼとぼと職員室に向かって歩き出した。