第9章 事情聴取(相澤消太)
「甘井さん」
「は、はいっ!?」
急に苗字を呼ばれて背筋がシャンと伸びてしまった。
「今は好きじゃないけど気になる……そういう見解で、いいですか?」
「……そ、そうですね……」
相澤さんの言った事に異論はない。
「そうですか。……なら、」
「試しに付き合おうとか、言わないで下さいね?」
私はつい、そう言っていた。
何だか今にもそんな事言いそうだったから、ついこの口が言っちゃったワケよ……
「相澤さん、距離感がアレですよ、もう……おかしいです、色々……」
突拍子もなくて、いきなり距離詰めてきて……
もうちょっと、時間かけてさぁ……関係を築くとか、そういうのがないのか、この人には。
「距離保って、何になるんです?」
「……う……」
そうきたか。
距離とか関係ないってか……ああもう……!
そんなの、ますます気になっちゃうじゃん……どうしてくれんの、もぉ……
「そんな事してる内に、あなたが他の男に盗られたらどうするんですか」
いや、私そこまでモテないから、ないない。
大丈夫、安心して距離保ってください、お願いだから!
心の中でツッコミを入れていると、突然抱きしめられた。
「そんなの、耐えられない」
「……た……」
相澤さんの身体は意外と熱くて、カルテを見た限り同い年なんだろうけど何だか大人の匂いがして、頭がクラクラしてしまう。
私も、何でこんなに距離距離って思ってるんだろう。
こんなの距離なんて無いに等しいじゃん。
いっか……もう。
私は、相澤さんの何とも言えない情熱に根負けした。
「もぉ、いいです……相澤さんの、好きにして下さい……」
ついまたこの口が、そんな事を言ってしまった。
それをいい方に捉えたのか……いや、それでいいんだけど、
相澤さんは私を抱きしめたまま口を開いた。
「そう言うなら、好きにしますよ」
「はい、もう……私の事、好きみたいなのは十分、伝わったんで……」
相澤さんの体温に、身体も心も絆されていく。
私……もう、このひとの事……
「好きです」
タイミングでも合わせたかのようにそう言われて、早くなった心臓の音がやけに耳についた。
ここが道の往来だとか、そんなのも関係なく彼のキスに応えていた。