【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第5章 A Heart Divided
ためらいのない強い歩幅で、昇降口を離れ、向かった先は––––。
校舎裏の体育倉庫だった。
人の気配がほとんどない放課後の裏手。
ドアを開ける音と、湿った空気が肌を撫でた。
仁美は抵抗する間もなく、倉庫の冷たい壁に背中を押しつけられた。
「……クロ、やめて。」
声を絞り出すが、黒尾の両腕が壁に伸び、仁美の逃げ道を塞いだ。
大きな手が顔のすぐ横に置かれ、空気が一気に近づく。
彼の顔が近い。
息が触れるほどの距離。
仁美は反射的に顔を背けた。
黒尾の体温と湿った倉庫の空気が混じり合い、胸の奥がざわざわと波打つ。
触れそうで、触れない距離。
黒尾の顔があまりに近くて、仁美は息を呑んだ。
少しでも動けば唇が触れてしまいそうな距離。
だけど、仁美はどうしても黒尾の目を見られなかった。
壁に追い詰められたまま、視線を床に落とす。
喉の奥がきゅっと締めつけられるような苦しさの中、仁美は震える声で言った。