【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第5章 A Heart Divided
息を切らすでもなく、いつもの気怠げな笑みを浮かべて。
片手には、見慣れたプラスチックカップ。
–––––あの、キッチンカーのジュースだった。
研磨の視線がそこに吸い寄せられる。
(……また、行ったんだ。)
何も聞かなくても分かる。
黒尾がまどかに会ってきたのだと。
仁美もジュースに気づいて、笑顔で言った。
「最近、それ好きだね。クロ。」
黒尾はいつもと変わらない笑みで、軽く頷く。
「うん。なんか、うまいんだよな。」
その声に特別な色はなかった。
仁美には、気づけないくらいには。
でも研磨には分かっていた。
あのジュースは、味よりも“誰と”結びついているのかを。
仁美が黒尾の隣に並び、嬉しそうに歩き出す。
研磨はその背中を見つめながら、胸の奥に小さな石を落としたような感覚を覚えていた。
(……また少し、変わったな。)
だけど、口には出さなかった。
出した瞬間に、何かが壊れてしまいそうな気がしたから。
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