【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第5章 A Heart Divided
「暑いですね。冷たいの、どうぞ。」
まどかは、涼しげな笑みを浮かべながらジュースを手渡した。
爪の先まで整った手。落ち着いた声。
(……クロ、今の顔……。)
研磨の胸の奥で、何かがざわついた。
彼の顔は、冗談を言うときでも、試合のときでも見たことがない顔だった。
まどかは微笑みながら黒尾からお金を受け取り、「また来てくださいね」と自然に言った。
その一言に、黒尾は何も返せず、ただ頷いた。
研磨は息をつき、いつも通り歩き出す黒尾の横顔を盗み見た。
2人は再び駅に向かって歩き始めた。
夕方のアスファルトはまだ熱を帯びていて、じわりと肌にまとわりつくような湿気が足元を重くする。
いつもなら黒尾が適当に喋って、研磨がそれを半分も聞いていない。
そんな日常のはずだった。
だけど今日は、黒尾がやけに静かだった。
研磨はちらりと横を歩く黒尾を見上げる。
「……クロ、どうしたの。」
黒尾は少しのあいだ口を閉ざしたまま、信号の向こうをぼんやりと見ていた。
やがて、呟くように言った。