【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第5章 A Heart Divided
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蝉の声が空を焦がすように響いていた。
高校二年の夏、練習帰りの夕方。
研磨と黒尾は、制服のまま、汗を拭いながら駅へと続く道を歩いていた。
「……喉、乾いた。」
黒尾がぼそりと呟いた。
研磨が目線を上げると、商業ビルの前に、期間限定のジュースを売る小さなワゴンが見えた。
カラフルなPOPと透明なカップに入ったドリンクが、夏の日差しに反射してキラキラと光っている。
「ちょっと買ってくる。」
黒尾はそう言って、ひょいと歩道を外れた。
「いらっしゃいませ。」
ワゴンの向こうから、明るく落ち着いた声が響いた。
まどかが顔を上げて黒尾を迎える。
年上特有の柔らかい笑みと、整った仕草。
制服姿の高校生たちとは、明らかに違う“世界”に生きている人だった。
黒尾の足が、ほんの一瞬止まった。
まるで時が止まったみたいに。
いつもなら軽口を叩いてすぐに済ませるはずなのに、このときばかりは、声が喉で詰まっていた。
研磨はその変化を見逃さなかった。