【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第3章 When It Hurts to Love
振り返るように声をかけると、黒尾も一瞬こちらを見た。
「ん?」
そのとき、スマホの通知音が小さく鳴った。
黒尾がポケットからスマホを取り出す。
いつもなら、そんな音に気づきもしないのに–––。
その仕草に、仁美はほんの少しだけ驚いた。
「……急用?」
自然と口から出た問いかけ。
胸の奥がざわりとする。
「研磨から?」
黒尾は一瞬、ほんの一瞬だけ間を置いて、
「……ああ、そう。」
短く、そう答えた。
仁美は小さく瞬きをした。
そのわずかな“間”が、喉の奥に詰まっていた勇気を、ひとつずつ削り取っていくようだった。
黒尾がスマホをポケットにしまい、こちらへ顔を向け直す。
「で、何だっけ? 話?」
けれど、仁美はもう、あのとき胸の奥で膨らんでいた言葉を掴めなくなっていた。
目の前の黒尾はいつもと同じ顔なのに、ほんの少しだけ遠く感じる。
「……なんでもない。」
絞り出すように言って、小さく笑う。
「おやすみ。」