【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第3章 When It Hurts to Love
「…………。」
胸の奥が、落ち着かない。
後夜祭に黒尾を誘うなら、今しかない––––
そう思えば思うほど、言葉が喉の奥で絡まって出てこない。
仁美はチラリと黒尾を見上げた。
街灯の光が彼の横顔を淡く照らしている。
肩の位置と顔の高さの差は、子どもの頃とは比べものにならないほど開いていた。
あの頃は、並んで歩けば自然と視線が合った。
今は、ちゃんと見ようとしなければ見えない。
控えめに見上げた視界の端っこに、黒尾の横顔が小さく入るだけ。
でも––––
それでも、その顔が好きだった。
無邪気に笑うときも、バレーに夢中になるときも、今みたいに黙って歩いているときも。
その全部を、ずっと見てきた。
仁美は唇をきゅっと結んで、握った拳に力を込めた。
心臓が少しずつ早くなっていく。
次の一歩で、きっと何かが変わる。
そのことを、誰よりも自分がわかっていた。
自分の家の門の前で、仁美は立ち止まった。
「……ここまで、ありがと。……あのさ、クロ…。」