【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
肩の上から伸びる腕が、自然に仁美の手のすぐ近くを通り抜ける。
そのたびに、彼の胸板が背中に軽く触れた。
ほんの少しの接触なのに、体の奥がじわっと熱くなる。
「動くなよ。」
耳元で落とされた声が、体の芯に届くように響いた。
仁美はぎこちなく息を飲み込み、小さくうなずくことしかできなかった。
コン、コン––––
釘を打つ音が近くで鳴る。
腕が動くたびに、黒尾の胸板が仁美の背中をかすめて、ぴくりと体が反応してしまう。
周囲の賑やかな文化祭準備の音が遠のいて、自分の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。
「……できた。」
黒尾が腕を引いた瞬間、仁美の体から圧がふっと抜ける。
呼吸が浅くなっているのを自覚して、慌てて深く息を吸った。
「ありがと。」
振り返ると、黒尾がすぐそこにいた。
距離が近い。
さっきまで背中越しにいたはずの彼が、今は目の前に立っている。
不意打ちのような近さに、視線が泳いだ。