【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
「……顔、赤いけど。」
「えっ!? な、なんでもない!」
慌ててパネルの方を向き直す仁美に、黒尾がふっと笑う。
その余裕のある笑みが、鼓動をさらに速くした。
パネルの貼り付けが終わったあとも、仁美と黒尾は看板の微調整や飾りつけに夢中になっていた。
気づけば、校舎の窓の外はすっかり暗くなっていて、廊下にはポツポツと帰り支度をする生徒たちの声が響いていた。
「だいぶできたな。」
黒尾が腰に手を当て、満足そうに完成した看板を見上げる。
蛍光灯の白い光が夜の暗がりと混ざって、廊下はほんの少しひんやりとしていた。
「ね、いい感じに仕上がったよね。」
仁美も隣で大きく伸びをする。
身体は疲れているのに、不思議と気分は悪くない。
文化祭前独特の、ワクワクした空気がまだ肌に残っていた。
「帰るか。」
「うん。」
二人の家の間は歩いて数分の距離。
帰り道が一緒になることは、昔からよくあることだった。