【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
そのまま、踵を返して廊下を歩き出した。
背中に仁美と黒尾の話し声がふわりと流れ込んでくる。
それはさっきまで一緒にいたときよりもずっと楽しそうで、心地よさそうだった。
振り返ることはしない。
けれど、耳だけは、どうしてか勝手に二人の声を拾ってしまう。
「そこ、ちょっと持ってて。」
黒尾がパネルを片手で持ち上げながら、仁美の背後に立った。
仁美は黒尾に言われた通りに脚立の段差に足を掛けて、パネルを押さえた。
次の瞬間、彼の腕が仁美の左右から伸び、まるで包み込むような姿勢になる。
仁美は壁にパネルを押し当てたまま、背中いっぱいに黒尾の気配を感じて息を呑んだ。
「……こ、こう?」
「うん、そのまま。」
低い声がすぐ耳の横で響いた。
振り返らなくても分かる。
黒尾の顔は自分のすぐ後ろにある。
吐息がかすかに首筋をかすめ、心臓が跳ねた。
黒尾は仁美越しにパネルの端を押さえ、釘を打つ位置を確認する。