【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
「おーい。」
そのとき、背後から聞き慣れた声がした。
黒尾が作業用のエプロンを腰に巻いたまま、片手を上げて近づいてくる。
ちょうど作業用教室から出てきたばかりらしく、髪の先にペンキの粉が少しだけついていた。
「お前ら、なにやってんの?」
軽い調子の声。
仁美は反射的に嬉しそうな表情を浮かべる。
「クロ!看板運んでたの。研磨が手伝ってくれて……」
「ふーん。」
黒尾は仁美と研磨、ふたりの姿をじっと見た。
視線がほんの一瞬、二人の間をなぞる。
その目は笑っているのに、どこかじんわりと熱を持っていた。
「じゃあ、俺が持つわ。」
黒尾は仁美の手から看板の端を自然な動作で奪い取る。
研磨の方へ向き直ると、軽く片眉を上げた。
「お前、自分のクラス戻れよ。」
その言い方は、冗談みたいに軽いのに、妙に“有無を言わせない”力があった。
研磨はその空気をよく知っていた。
「……はいはい。」
研磨はポケットに手を突っ込んだまま、軽く肩をすくめる。