【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
後夜祭–––––。
毎年恒例で行われるキャンプファイヤーのまわりで、告白が成功したカップルが一緒に踊るという“おまじない”のような伝統。
ずっと仲良くいられる、と生徒の間では当たり前のように語られていた。
仁美は頬を赤らめながら、でもどこか楽しそうに言葉を続けた。
「後夜祭のダンスって、ほら、あれ。成功したら、ずっと一緒にいられるってやつ。……ちょっと、憧れてたんだ。」
その顔は、まっすぐで、どこまでも無防備だった。
研磨は一瞬、息を詰めたような感覚に襲われた。
そして、ゆっくりと息を吐き出す。
「……ふーん。」
何気ない返事。
文化祭前の賑わいが、ふたりの沈黙を包み込んだ。
「……頑張ってね。」
研磨が小さく、けれどはっきりとそう言った。
目は合わせないまま、看板の端を握る手にほんの少し力を込める。
仁美は一瞬だけ目を瞬かせて、ふわっと笑った。
「うん、ありがと。」
その笑顔がまぶしくて、研磨は一瞬だけ視線をそらした。
廊下のざわめきが、少し遠くに聞こえる。