【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第9章 Cling to Me, Even If it Hurts
「研磨帰って来たらさ、付き合ってるって言うからさ。いつも通り……笑って。」
仁美は喉が震えながらも、いつもの笑顔を作った。
黒尾は満足げに頷いて、にこっと笑う。
玄関の鍵の回る音がした。
「ただいま。」
研磨の声は、いつも通りだった。
けれど、玄関に足を踏み入れた瞬間––––。
黒尾の靴、仁美の靴。
それを見た研磨は、小さく、ひとつ息を吐いた。
「……ああ、そっか。」
呟きは諦めにも、理解にも近い。
ドアノブに触れた手が一瞬止まる。
そのわずかな間に、胸の奥がひやりと冷えた。
一歩、遅かった。
その現実が、静かに落ちてくる。
研磨はその先にある光景を想像しながら、自分の部屋のドアを開ける。
黒尾はいつもの明るい笑みを研磨に向けていた。
「研磨!俺と仁美付き合った!」
彼の声は弾んでいた。
嬉しくて仕方ない少年のように。
その横で、仁美は––––。
いつも通りの笑顔。
でも目の奥だけ、不自然に揺れている。