【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
仁美が黒尾を見上げる横顔は、ずっと昔から知っている顔だ。
あの頃と何も変わらない–––けれど、もう戻れないところにいるような気がした。
「……。」
研磨はスマホを再び見下ろし、指先で画面をタップした。
ゲームの音がやけに大きく響く。
その音に、さっきから心臓の奥がざらざらと擦れるような感覚が混ざっていた。
苛立ちでも嫉妬でもない、もっと静かで鈍い痛み。
「おじゃま。」
黒尾が軽くそう言って、何事もなかったように机に勉強道具を広げた。
仁美がぎこちなく笑い返す声を聞きながら、研磨は画面から目を離さなかった。
視界の端にある二人の距離が、普段より少しだけ近い気がする。
胸の奥が、息を吐くたびに小さく軋む。
でも、言葉にはしない。
言ってしまえば、壊れてしまうものがあると、研磨は知っているから。
そのまま何も言わず、画面に視線を落としたまま、研磨はただ、黒尾の笑い声と仁美の反応を聞いていた。