【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
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春高が終わって、校舎の空気は少しだけ変わっていた。
廊下にはペンキや段ボールの匂いが漂っている。
3年生の廊下はいつもより騒がしくて、笑い声と作業の音が入り混じっていた。
部活が終わったあとに残ったのは–––文化祭の準備だけ。
高校生活の“ラストイベント”に、三年生の教室はあちこちが活気に満ちていた。
「研磨ーっ!」
誰かの声が響く。
体育館から風が流れ込む開け放たれた廊下の先、大きなパネルを抱えながら必死に廊下を歩いてくる仁美の姿が見えた。
パネルは彼女の肩幅よりも大きく、明らかに一人で運ぶには無理があるサイズだ。
「なにそれ……。」
研磨が声をかけると、仁美は半分泣き笑いみたいな顔で答えた。
「看板パネル!係の子がちょっといなくなっちゃって……一人で持ってきちゃった……!」
声を張り上げながら、今にもバランスを崩しそうにふらふらしている。
研磨はため息をつき、スマホをポケットにしまうと、すぐに駆け寄った。