【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
「な、なに……!」
「寒いかと思って。」
黒尾の声はいつもと変わらない、軽い調子だった。
でも、その奥にはほんの少しだけ熱が混ざっている気がした。
気づかないのは仁美だけ。
研磨は、スマホの画面を見ながら、静かに息を吐いた。
黒尾が仁美の膝にシャツを掛けた瞬間、部屋の空気がかすかに変わった。
仁美は慌てたようにスカートを押さえ、真っ赤になった顔を伏せる。
黒尾は何も言わず、そのままいつもの調子で笑っていた。
いつものような、冗談を飛ばすでもない、あっさりとした笑顔だった。
研磨はベッドの上から、それをただ見ていた。
スマホを持ったまま、視線だけを横に滑らせる。
何も言わない。言えるはずもない。
(…やっぱりクロは最悪だ…。)
研磨は心の中で黒尾に悪態を吐いた。
でも、それを口にする理由も、意味もない。
彼が仁美に嘘をついたわけじゃない。
けれど、真実を知らないのは仁美だけ。
そして、その知らなさが、彼女をまっすぐ黒尾の方へ向かわせる。