【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
さっきまでよりも、少し空気が重く感じたその瞬間–––––。
「おーい。」
部屋のドアが軽く開いて、黒尾の声が響いた。
仁美と研磨、二人の視線が同時にドアへ向く。
黒尾は何も知らない顔でいつもの調子で立っていた。
その姿が、妙に現実感を引き戻した。
研磨はスマホを握ったまま、短く息を吐く。
仁美は一気に体を起こした。
さっきの出来事がまだ肌に残っていて、鼓動が妙にうるさい。
(もしかして、今の……聞かれてた?何処から?!)
黒尾の声がしたときの記憶を思い返して、心臓がぎゅっと締めつけられる。
「ど、どこ行ってたの?」
焦りを隠すように早口で言うと、黒尾は部屋のドアにもたれかかったまま、軽く眉を上げた。
「用事。」
それだけだった。
曖昧な返事。けれど、声よりもその目線の方が何倍も雄弁だった。
黒尾の視線が、仁美と研磨の間を一度だけ、静かに、しかし鋭くなぞった。
何も言っていないのに–––––この部屋に入る直前の空気を読まれてしまったような気がした。