【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第2章 Shifting Distance
エアコンの風が部屋のカーテンを揺らしている。
仁美の声が消えたあと、部屋の中には静けさが落ちた。
研磨はスマホの画面を見つめながら、さっきの言葉を頭の奥で繰り返していた。
––––クロの部活も終わったし、告白しようかなぁ。
驚きなんてなかった。
仁美が黒尾を好きなことは、とっくの昔に知っていた。
いつからと聞かれたら、明確には言えない。
でも、中学生になったばかりのころには、もう仁美の視線は黒尾に向いていた。
バレー部の練習帰り、体育館の外で楽しそうに話していたあの日も。
黒尾の背中を目で追い続けていた姿を、研磨はちゃんと覚えている。
それでも、彼はそのことに一度も触れたことがなかった。
「……あ。」
仁美が思い出したように顔を上げた。
「クロ、今日ちょっと用事あるから遅れるって言ってたんだった。」
研磨はスマホを操作する手を止めず、ただ耳だけでその言葉を受け取る。