第2章 Shifting Distance

仁美は何気ない声だったけれど、その瞳の奥に“待っている”色があった。

まるで、その時間さえも少し楽しみにしているように。




「クロの用事ってなんだろ。」

言葉に浮かぶ小さな期待に、研磨はほんの一瞬だけ指を止めた。

短い間が部屋に落ちる。

そして、いつも通りの淡々とした声で返す。





「……知らない。」

スマホの画面に再び視線を落とす。




「……研磨、なんか冷たくない？」

仁美は頬をふくらませて、わざとらしく声を強めた。

研磨はベッドの上でスマホをいじったまま、相変わらず視線を上げない。




「別に。」

その一言が、余計に仁美の胸をもやっとさせた。




「もう……！」

ムッとした仁美は椅子を立ち、研磨のベッドにずかずかと近づいた。

ベッドの上に腰を下ろすと、研磨の手元にあるスマホを勢いよく奪い取る。




「ちょ、返して。」

「嫌。さっきからずっとスマホばっか見てるし。」

「……返せ。」