第3章 依依恋恋 三話
(……主役となる娘が、神代(かみよ)の記憶を持つ男達と接触する事で過去の記憶を取り戻すか否か、そこだけは未だ結末を決めかねている。それは俺がこの娘に、乱世での事を思い出して欲しいと心の何処かで願っているからなのか)
忘れたままでもいい、とはっきり口に出来ないのは過去へのしがらみ故か。あるいは、今でも光秀の中に褪せる事なく鮮やかに残る多くの思い出を、彼女と共有したいと思っているからなのか。今世の凪と出会ってまだたったの二日。その為か、乱世の記憶を取り戻してから、延々と待ち望んだ彼女という存在に対し、少々欲張りになっているのではないかと、光秀は内心浅い嘆息を零す。
(やはり、凪といると欲が出る。つい先日までは見つけられれば、それで十分だとすら思っていたというのに……単に殊勝な振りをしていただけだったな)
他の男に渡す気は更々ないものの、かといって無理に彼女を囲って雁字搦(がんじがら)めにしたい訳ではない。凪が凪らしくいてくれるのなら、幾らでも待つというのも嘘ではなく、本心だ。彼女を尊重したい気持ちと、光秀の中へ確かに燻る欲望。その正反対な性質を持つ感情を胸の奥へ持て余し、男が味も分からない紅茶で押し流す。
「あ、ところで先生、この物語の舞台は何処になる予定ですか?」
「そうだな……神話には様々な国の名が記されているが、此度は出雲(いずも)の地を舞台にするつもりだ」
「出雲……!神話の国ですね」
「ああ、あそこならば現代でも神話と所縁(ゆかり)のある地も多いだろう」
「なるほど、作品との現地でのコラボもいずれ実現出来たら楽しそうです!」