第3章 依依恋恋 三話
公私混同はしないと決めていても、凪は元々【作家、明智光秀】の大ファンだ。ここで数々の名作が生み出されたのか、と思うと色々感慨深いものがある。あまり人の部屋をじろじろ見回すのは良くない事だが、つい視線がそろりと辺りを巡ってしまう。
十二畳以上はありそうな一室は入口こそ襖で和室仕様であったが、室内はフローリングであった。大きな窓の傍には広々とした重厚そうな書斎机が置かれており、その上には大量の原稿用紙と万年筆、そしてノートパソコンの端末など、おそらく執筆に使うであろう品々が用意されている。
現在はほとんどの作家がデジタル原稿へ切り替えているものの、中には手書きの原稿にこだわる作家も存外いるものだ。光秀自身の出で立ちも相俟って、手書き原稿はとても印象に合っているように感じられる。全体的にあまり余計な家具類がなく、必要最低限でまとめられた一室内は良くいえばシンプル、悪くいえば生活感があまり感じられない雰囲気だ。
書斎机以外にも、そこからやや離れたところに対面で置かれた真っ白なソファーと、中央にガラス天板のテーブルがある。壁一面をぐるりと囲うように置かれた本棚には光秀の自著の他、様々な資料書籍が敷き詰められていた。中にはかなり歴史的価値のある書籍も収納されており、印象的であったのが、そのいずれもが戦国時代に関するものだという事だろうか。
(先生の本自体、ほとんど戦国時代が舞台のものだったし……やっぱりその時代が一番好きなのかな?)
知られざる舞台裏を見ているような心地になって密やかに心を浮足立たせていると、書斎机の上できらりと何かが反射したような気がして、自然と吸い寄せられるようにそちらへ向かった。真っ白な原稿用紙の傍、細やかな硝子製アクセサリートレーの上に置かれている美しい簪を前に、音も無く息を呑む。
「綺麗……」