第78章 離れゆく気持ち…
翌朝、宿の食堂に差し込む光は、真っ直ぐな光で眩しすぎた…
向かい合うしのぶは、時折顔を伏せ頬を染める。
その初々しい仕草は、一線を越えた男女の証そのもの…
義勇は、自身の指先に残るしのぶの肌の感触を振り払うように、強く箸を握りしめた。
そうだ…あいつも、今頃は不死川と同じように…
自分に言い聞かせる。
食後、刀の調整のために鍛冶場へ向かおうとした二人の前に、不死川が姿を現した…。
義勇の心臓が、嫌な音を立て早まる。
不死川の首元や胸に、ゆきがつけたであろう唇の痕跡を探してしまう。
だが、そんなものは見当たらなかった。
何故だ?
しのぶが、探るような笑みを浮かべて問いかける。
「あら、不死川さん。お一人ですか? …てっきり、昨夜はゆきさんとご一緒だと思っていましたけれど」
不死川は、心底不快そうに顔を歪めた。
「あァ? 何言ってやがる。俺ァ昨夜は一人で稽古してた後、さっさと寝ちまったけど?」
不死川の吐き捨てた言葉が、義勇の脳内で爆音のように響いた。
頭が真っ白になる。
「宿にゆきが訪ねてこなかったか?」
「来ねェよ!お前が一緒だったんだろ?温泉で助けて気が付いた後急いでお前ん所へ戻って行ったからなァ」
不死川の話を聞いてすぐに義勇は、しのぶの制止も聞かずに駆け出した。
「ゆき…っ!」
必死に探し回り、辿り着いたのは里外れの高台だった。
そこには、初夏の野原に不釣り合いな、冷たくなったゆきが横たわっていた。
「ゆき!」
駆け寄り、震える手で抱き上げる。桜色の羽織は夜露でぐっしょりと濡れていた…。
その中に包まれたゆきの体は、氷のように冷たく、まるで命の灯火が消えかかっているかのようだった。
「ゆき!ゆき」
義勇がどれほど名前を呼んでも、彼女の瞳は開かない。
抱きしめた瞬間、義勇の鼻を突いたのは、自分の体から漂う「しのぶの香り」だった。
ゆきを冷たい夜風の中に一人きりにし、自分は他の女の体温に溺れていたという…俺はなんて奴なんだ…
「すまないっ、目を開けてくれ…!」
冷え切った彼女の頬に自分の顔を寄せた。
「…んっ」
「ゆき!?」