第88章 淋しい夜〜冨岡義勇
義勇は腕の中で震えるゆきを、強く抱き締めた。
寝間着越しに伝わる義勇の鼓動は驚くほど速かった…。
その音が、不安で張り裂けそうだったゆきの心を、辛うじて落ち着かせた。
その時、廊下から慌ただしい足音が近づいてきた。
「冨岡様! 何か異状がございましたか? 大きな物音がいたしましたが…!」
隠の緊迫した声が響く。
本来ならば即座にゆきから、身を離すべき場面
しかし、義勇はゆきを布団の上で抱きすくめたまま、わずかに顔を上げただけで答えた。
「大丈夫だ…ゆきが来ただけだ。何事もない」
「はっ…! 左様でございましたか、失礼いたしました!」
隠は一瞬、その光景を想像して言葉を詰まらせたようだったが、すぐに深々と頭を下げて引き下がろうとした。
その背中に、義勇が声をかける。
「待て。何か屋敷に連絡は来ていないか。時透が任務に出たまま、昨夜から音沙汰がないらしい」
「こちらには、まだ何も。至急、情報収集に当たってまいります!」
遠ざかる足音…。
ゆきは義勇の胸に顔を埋めたまま、泣いている。
無一郎の安否は依然として不明なまま。
暫くして、ゆきは義勇に失礼な事をしているのに気付き慌てて義勇の顔を見た
「あの…義勇さん、ごめんなさい。こんな早朝に…都合よく頼ってしまって…まだお休みだったのに…」
押し伏せられた体勢のまま、ゆきは潤んだ瞳で義勇を見上げた。その言葉を聞いた瞬間、義勇の瞳が優しく緩む…
「…謝るな」
触れ合っている場所が熱い…。
義勇は、自分を見上げるゆきの頬を、大きな掌で包み込んだ。
「頼って、何が悪い。俺は…お前に頼られ迷惑など思わない」
義勇の指が、頬に伝う涙をそっとなぞる。
時透を心配するゆきを支えたいと思う一方で、自分のもとに駆けつけてくれたという事実が、俺の胸を甘く、切なく掻き乱している…。
「…とりあえず、朝食を共に摂ろう。着替える間、少し待っていてくれ」
そう言って義勇は、名残惜しそうに腕の力を緩めると、ゆきの頭をポンと撫で着替えを始めた。
躊躇すること無く寝間着を目の前で脱ぎ捨てる義勇を見てゆきは、赤面して慌てて後を向いた。