第78章 離れゆく気持ち…
「遅い……」
義勇が立ち上がったその時、廊下の先からしのぶが声をかけた。
「あら、冨岡さん。ゆきさんをお探し? 彼女なら先ほど、不死川さんに抱えられて彼が泊まる離れの方へ向かいましたよ」
しのぶの言葉に、義勇の心臓が大きく鳴る。
「なぜ、不死川が……」
「温泉の近くで見たので、湯あたりでもしたのでは?あっ…混浴ですし不死川さんと一緒に、入っていたのかもしれませんね…ゆきさんこの前の時透さんの屋敷での食事の時も不死川さんと仲よさげでしたので、もしかして…」
動揺を隠せない義勇の視線が揺れる。そんな彼に、しのぶは気付いていた。
「どこの宿に不死川は宿泊している?」
「行くのですか?」
しのぶが、切ない表情で義勇の羽織の裾を掴んでいる。
「胡蝶…」
「冨岡さんは…ゆきさんとどうなりたいのです?あの人はいったい誰を好いているのですか?」
しのぶは、義勇の腕の中に飛び込んだ。
ゆきとは、違う香りが義勇の心をくすぐる…ゆきから香る甘い香りではない…藤の花の香りがする…
「行かないで…」
「…胡蝶」
「冨岡さん…私貴方が本当に好きです。薬を使って眠らせてまでして貴方を手に入れようとしたのも、本気で好きだからです…。ゆきさんが現れるまで少しは私を見ていてくれた時期ありましたよね?」
ゆきとは、違う肌に触れる身体の感触…胡蝶がこんなにも近くにいる…
ゆきとは、違う髪の感触…
いつも凛としているのに、震える肩…
こんな胡蝶を、置いて誰を好いているのかわからないゆきの元に行き…俺は、また翻弄される日々を送るのか…?
「冨岡さん…お願い傍にいてください。」
義勇の腕が、ゆっくりとしのぶの背中に回された。初めてゆき以外の女性を義勇は、抱きしめた。
その頃
「おい一人で戻れるのかァ?」
「はい。すみません迷惑かけちゃって」
不死川に、温泉で助けられたゆきは、すっかり湯あたりも治り義勇の待つ宿に戻る所だった。
「脱衣所に運んだ時によォちょうど温泉管理しているおばさんがいたから、そいつがァお前着替えさせたから、俺はァ何も見てねェからな!」
ぶっきら棒に不死川が言い放った。
「わかりました!あり難うございます」