第78章 離れゆく気持ち…
その時背後からふすまが開く音がした…。
「同室が、嫌なら部屋を別に用意してもらおうか?」
義勇が、涼しい表情をして立っていた。
「別に構わないです…慣れてるし…」
以前、無一郎と婚約解消した時は義勇は、自分の屋敷に
ゆきを連れ帰り一人にするのは心配だと、同じ部屋しかも同じ布団で眠っていた。
だけど…私が美月さんに食糧庫に閉じ込められ騒ぎになった日、美月さんをしのぶさんは庇い美月さんの無一郎くんへの気持ち…そしてしのぶさんの義勇さんへの想いを聞いたあの日を境に、義勇さんは私と距離を取っている。
一途な、しのぶさんに気持ちが少し向いているのを感じずにはいられない…。
「温泉には入ったのか?」
「…まだです…。」
「手の甲の怪我の療養の為にも里に来ているんだ。今から入ってこい。」
「…分かりました。すぐに行ってきます」
私は義勇さんの視線を避けるようにして、着替えを入れた籠を手に取った。
温泉に向かう廊下は、夜の静寂に包まれていた。
湯船に浸かり、白い湯気に包まれながら、あの日聞いたしのぶさんの声を思い出す。
彼女の義勇さんへの想いは、揺るぎなく、そしてあまりに真っ直ぐだった。素直に好きが伝わった
それに比べて、私は…誰が好きなの?
「…熱い…」
お湯の熱さが、いつの間にか思考をぼやけさせていく。
考えれば考えるほど、胸が締め付けられて息苦しい。
あの優しかった義勇さんの瞳が、今はしのぶさんの方を向いているのだと思うと、湯気で視界が歪んでいく。
出なきゃ…。でも、身体が動かない…
意識が遠のき、ふらりと視界が回った。
一方、部屋では義勇が一人、運ばれてきた夕食の膳を前に座っていた。
いつもなら、とっくに戻ってきているはずの時間だ。
「遅い」
ぽつりと呟いた言葉が、無人の部屋に虚しく響く。
しのぶの言葉、そして彼女が見せるひたむきな想い。
それを知ってから、自分の中にいる「ゆき」の存在をどう扱えばいいのか、彼自身も測りかねていた。
一方温泉では…
「おい?大丈夫か?」
湯気の向こうで声がする…私はその声の誰かに抱きかかえられ温泉から出された…。
誰…私…裸なのに…恥ずかしいよ…義勇さん?
あっ…義勇さんは、もう来てくれないよね…
じゃあ…誰…