第78章 離れゆく気持ち…
義勇さんの大きな手が、ぴたりと止まった。
握られた手首から、彼の動揺が脈打つように伝わってくる。部屋には、外で降り続く小雨の音と、重苦しい沈黙が広がった。
「…嫌い、だと?」
鋭い視線で私を見てくる…
「なぜ、そうなる…。俺がいつ、お前を嫌いだと言った」
「だって、目は合わせてくれないし、声もかけてくれない…。あんなに優しかった義勇さんが、今は私の存在を避けているみたいで…。しのぶさんのところへ行くのも、私と居たくないからでしょう?」
「違う」
「義勇さんは、しのぶさんが大切だって気付いたんですよ…。」
「そんな事はない!」
「義勇さんの事を好きなのか、無一郎くんの事を好きなのか分からない私より、真っ直ぐに一途に想ってくれているしのぶさんの事を気づかぬうちに好きになっているんですよ…義勇さんはきっと…」
義勇の大きな手が、ゆきの手首を壊れそうなほど強く握りしめた。
「…勝手な憶測で、俺の心を決めつけるな」
義勇は一歩、ゆきを壁際へと追い詰める。
「胡蝶のところへ行っていたのは…俺のせいだ。俺がお前に夢中になるあまり、あいつを深く傷つけてしまった。その罪悪感から、せめてもの償いとして優しく接していただけだ。それが、お前にはそんな風に見えていたのか…?」
しのぶが自分に向ける、報われない愛情。
そして、ゆきを憎むような、鋭く冷たい視線。
義勇はそれに気づいていたからこそ、波風を立てぬよう、しのぶに気を遣い、ゆきを遠ざけていた。
だが、ゆきはそんな事には気づいてはいなかった。
「は、離して下さい!しのぶさんに後ろめたいなら付き合えばいいじゃないですか!?」
義勇のゆきを掴んでいた手が一瞬弱まった。
「正気か?…いいのか?俺が胡蝶と付き合っても?」
「今日…お稽古付けて欲しかったのに義勇さんは、しのぶさんを、選んだ…それが義勇さんの本心なんでは?」
義勇は、腹が立った…ゆきは、何でいつも俺の気持ちを誤解して受け取るんだ…好きだ…好きだけど…なんだか疲れてきた…
「…お前の気持ちがわからない…」
義勇は、そう言い終えると黙って手の甲の手当てをしてくれた。
とても、寂しそうな顔で…