第88章 淋しい夜〜冨岡義勇
背を向けて小さく丸まったゆきの肩は、まだ小刻みに震えていた。
着替えを進める義勇の手が、ふと止まる。無防備なその後ろ姿を見つめるうちに、胸の奥をぎゅっと掴まれたような感覚に襲われた。
…俺の着替えに、照れているのか
無意識のうちに、口角がわずかに上がる…。
不安に押し潰されそうになりながらも、まだ俺にそんな感情を持ってくれる純真さを失わないゆきが、ひどく愛おしい。
そんなことを考えながら、義勇は素早く隊服に袖を通すと、そっとゆきの肩に手を置いた。
「ゆき」
「きゃっ!」
肩を跳ねさせたゆきは、耳まで真っ赤に染め上げ振り返ることもできずに固まっている。
その初々しさに、義勇の胸の鼓動が再び速まった…。自身の鼓動を落ち着かせながら声をかける
「驚かせてすまない。…準備はできた、朝食に行こう」
義勇はゆきの手を取り、廊下へと導いた。
食堂に足を踏み入れると、すでに温かな湯気が立ち上っていた。
並べられた膳を見て、ゆきが驚く。
そこにはゆきが以前、美味しそうに食べていた好物ばかりが並んでいた。
「ゆき様、どうぞ。今、隠たちが全力で時透様の情報を集めておりますから。少しでも精をつけて、お待ちくださいね」
配膳をしていた隠が、安心させるように微笑みを向ける。
その言葉に、ゆきの瞳に再びじわりと涙が滲んだ。
義勇だけでなく、この屋敷の人々は皆、こんな自分を家族のように案じ、優しくしてくれる。
「…ありがとうございます」
震える声で感謝を述べるゆきの横顔を、義勇は静かに見つめた。
無一郎を想うゆきの心は、今もなお悲しみと不安に揺れている。
けれど、ここで向けられる無数の優しさが、ゆきの心を確実に癒しているのも事実だった。
「食べろ。一人ではないことを、忘れるな」
義勇の短い言葉に、ゆきはもっと目頭が熱くなり涙が溢れた…