第15章 誘われた夜
「確か朝、まだ長かったよな…」
「ん…切って…見た…」
「…不意打ちすぎるっつぅの」
「変かな…」
「似合ってる…」
ぽつりと返事をする加賀の横顔を見上げれば耳がほんのり赤く染まっていた。
「…よかった…」
「でもまたなんで切っちまったんだ」
「…別に…気分転換?」
「そっか…」
「加賀さん…長いほうのが好きかなとかも思ったんだけど…」
「どっちでも、そんなにどうこう考えたことはなかったな…」
「そうなんだ…」
「…似合ってれば全然いい…」
言葉少なに、でも確かに加賀は雅に対して褒めていた。エレベータの中、ふと触れた指先を掬い取る加賀の行動に緊張が隠せなくなった雅。
チン…・・・
軽い音と同時に扉は開く。するりとほどかれた指先がどことなく行き場をなくしたまま、迷子になっていたもののロビーで待ち合わせていたグレイたちを見かけると今まで以上の緊張が雅の中を駆け抜ける。
「…悪いな、待たせた。」
「いや、時間前だ。大丈夫」
「そうですね…確かに…」
グレイとフィルの視線が雅に移ると雅は慌てて頭を下げた。
「…あ、初めまして、スゴウグランプリの真坂雅と言います…」
「こりゃ、先手取られたな。俺はグレイ・スタンベック。こいつ専属のメカニックだ。」
「僕はフィル・フリッツ。よろしく」
「よろしくお願いします…」
そうして移動し、フィルの運転で車を走らせる。
「…フィルさん、運転優しいですね…」
「あ、ありがとうございます」
「クスクス…よかったな、フィル」
「茶化さないでくれませんか?」
敬語が癖になっているのだろう、フィルは照れ笑いを隠し切れなかった。