第36章 パンドラの箱
「ずっと…言われてた…私が…殺したんだって…」
「殺してねぇ。」
「…ッ…でも、」
「でも、じゃねぇよ。」
腕を緩める事も無いままに加賀は抱きしめたまま離せなかった。
「…気にするなってのは言えねぇよ…ずっと長い事言われたり、思われてたんだろ…」
「…ッん…」
「それなら不安になっても仕方ない、それに思いつめるのもわかる。だけどよ…?」
ゆっくりと体を離せば加賀は不安と恐怖にも似た感情でぐちゃぐちゃになった顔を持った雅の頬を包み込んだ。
「…忘れたわけじゃないんだろ?その事」
「…コク…」
「付き合わなかったほうがいいって思ってたんだ…?」
「ん…」
「その彼氏は?何か言ったの?」
「…ッッ」
小さく左右に首を振った雅。
「…ただ、何も言わなくなって…話しかけようとしても避けられて…」
「…そっか」
「だから…ッそれと同じことになりたくなくて…シンディさんの時も…怖くなって…」
「そっか…」
「でも…城の事は失いたくなくて…言い出せなかった…言えなかったのはそれだけじゃなくて…私の中でもそう、思ってたから…」
「…雅…」
「…ッッ」
話す前に渡されたリングを加賀はもう一度雅の左の薬指にはめた。
「…ッッ…城…?」
「俺は過去の雅も、全部引き受けるって言ってもそれ、まだ俺に返したい?」
「…ッ」
「引き受けるっていうのもおかしいな。心の傷が癒える事はないかもしれない…でも、それもまとめて俺との記憶で思い出すことも無くなる位になればいいと思ってる。」
「…無理、だよ…ッ」
「無理じゃねぇよ」
そう続けた加賀だった。