第36章 パンドラの箱
「それをさっきの翼は知ってるの。一旦は高校卒業後に関係も何もなくなったんだけど、就職先っていうか、そこで再開するっていうベタなシチュエーション。遠くに働きに出ることもできなかったし、ほら、就活もうまく行かなかったって前に話したでしょ?その過去を知ってても仕事を続けれるようにって翼は黙っててくれたんだと思う。それで付き合ったりもした。今思えば性欲処理の…口止めだけみたいな感じだったのにね。」
「雅…」
「それで、気付いたらモラハラもあって…殺人犯してんだって…そんな事を言われれば嫌でも相手に合わせて抱かれなくちゃいけなくて…気持ちよくねぇて散々言われたけど、それでも…」
「雅…ッッ」
「…こんなこと聞かされて、今更って思うよね…誰でもきっと嫌だし…でも『雅!』…ン…」
顎を持ち上げて加賀は唇を塞いでいく。体を押し戻そうとすれば一旦は離れるものの、肩を掴まれればさらに深く、息吐く間もないほどに唇は塞がれたままだった。
フッと力が抜けた時だ。ようやく加賀は唇をゆっくりと離す。
「…もう、いい…」
「でも…ッッ…しっかりと…話さなきゃ…」
「いいって…もう…話さなくていい…」
「…城…」
グッと背中に腕を回して加賀は抱きしめた。
「…違う…、雅は殺してなんかねぇよ…大丈夫」
「…でも…皆…はっきりとは言わなくてもそう思って…」
「高校の時のだろ…」
「ん…私が付き合わなければ…って…」
「関係ねぇだろうが…ましてや知らなかったんだろ…」
「ん…」
「なら雅が殺したってわけじゃねぇ。大丈夫だ。」
「…ッッ…」
「少なくとも、今の話を聞いた限りじゃ俺はそう思わねぇよ。」
そう言いながらもあふれ出した涙が止まるわけもなかった。