第30章 初めての買い物
「『そんな事』じゃないの…私にとってみたら。」
「雅…?」
「ずっと城君の走りを見てられる…ずっと追いかけれる…数字も一秒、0.01秒まで細かく見れるの…それってすごく幸せなんだ。」
不意にフィルの視線が雅の後ろに行くものの、それでも雅は気づかずに話し続けた。
「アンリの取るのが嫌だったわけじゃないし、スゴウのチームが嫌だったわけじゃないの。でも、ずっと隠れて城君のデータ走り書きで留めて、アンリのまとめた後に城君のデータを入力してるのが幸せだった…」
「でも、…だったらなんで途中でAOIに来なかったわけ?」
「それは…投げ出したくなかった。」
そういう雅は少しだけ俯いた。
「…途中でスゴウから出るってのが投げ出すみたいで…そんなことしても私も後悔しそうだし、城君も失いそうになるだろうし、何もいいことないだろうなって…」
「別に、加賀にとってはいい事なんじゃないの?最後にはAOIに入ってる、今日子さんだって許してたんでしょ?」
「そうなんだけど…なんていうのかな…うまく言えないんだけど、やり遂げたかったの。アンリのレースを、最後まで」
そこまで言えばあたりをきょろきょろと見渡す雅。
「城君遅い…って…いつからいたの?!」
「アンリのデータ云々あたり?」
「フィル…気付いてた?!」
「そりゃこの位置だし」
「教えてよ…ぉ」
「いや、だって…」
「俺が聞きたかったからな」
「城君…?」
「だから俺が言わない様に促してた」
「トイレ行ったのも嘘?」
「いや?戻ってきた時に話してるからよ?」
「……もぉ…」
ポン…っと頭を撫でて加賀は雅の肩に手を回す。