第26章 約束
「真坂…」
「はい…ッ」
「行って来い。」
「…え?」
その瞬間、加賀の凰呀とハヤトのアスラーダが残り2周のタイミングでストレートに入ってくる。
「…ハヤトも局面で加賀君に力を借りてるときもあった。相手が最高の力を出した状態で、ハヤトも勝つなら勝ちたいはずだ。」
「…でも…」
「時間は5分。その時間が来たらこっちに戻ってこい」
「…ッッ」
「雅…」
「アンリ…」
「僕のレースは終わってる。これ以上モニター見る必要もないでしょ。」
「…ッッ」
「泣く暇あるならさっさと行きなよ」
アンリの後押しと修の決断を聞いて雅はスゴウのヘッドフォンを外す。
「…行って、来ます」
そういえば今日子からヘッドフォンを受け取りAOIのピットに足を踏み入れた。
「…雅?」
「あの子…」
ミキやグレイ、フィルもその様子に驚いていたものの、雅はヘッドフォンを耳に当て、通信をオンにする。
そこから漏れ聞こえてきたのは加賀の荒い呼吸だった。
『もぉ…無理かもしれねぇ…』
泣き言にも似た声を聞いた雅。キュッと唇をかみしめればゆっくりと話し出した。
「…城君…」
『…ッッ…・・なん、で』
「大丈夫だよ、城君なら…走れる、誰よりも強いじゃない…」
『…ッッ』
「勝つんでしょ?……最後…勝って終わるんでしょ?負けていいの?」
『…ッ』
「大丈夫、…・・・大丈夫だから…」
『…簡単じゃ…ねぇんだよ』
「…知ってる、でも…勝ってアメリカ行くんでしょ?連れてって…くれるんでしょ?」
そう続ける雅の声に加賀も無言になる。今日子はきゅっとうつ向いたままだった。
「…待ってるから…一番で帰ってくるの…」
『チーム的には…違うじゃねぇの、待つ相手がよ』
「今私はあなたを待ちたいって言っても?」
『…たく…わがままだな…ほんとに』