【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第1章 「香惑の宵**」
「僕、用事思い出した!あとは自習でよろしく〜」
そう言って教室を出る足取りは、明らかに“急ぎ足”。
「えっ、五条先生? 実習は?」
「……はぁ」
「またサボりじゃないの?」
野薔薇が呆れたように言ったが、廊下を行く五条の背中に、
そんな声はもう届いていない。
(もし、あれのせいで倒れてたら……)
(いやまて、それともまさか一晩かけて効いて――)
(……いやいやいや、落ち着け僕)
心配なのか、妄想が暴走しているのか、もはや自分でも分からない。
だが、確かなのはひとつだけ。
――彼の足は、もうの部屋の前に、止まっていた。
***
の部屋の前で、五条は軽くノックした。
「? ……大丈夫?」
しばらく間があって、扉の向こうからかすかな返事が返ってきた。
「……だいじょぶ、です……」
声がかすれている。聞き慣れた声なのに、どこか熱に浮かされたような響きだった。
五条は眉を寄せた。
「……、具合悪いなら、すぐ硝子呼んでくるから」
その瞬間――ガタッと、内側で何かが倒れるような音。
続いて、焦ったようなの声が飛んだ。
「だ、ダメっ……! 硝子さん……呼んじゃ……!」
「えっ……?」
バッと扉が開いた。
そこに立っていたのは、
頬を赤く染め、息を乱し、目の焦点が少し合っていないだった。
額にはうっすらと汗が滲んでいる。
目元は熱っぽく潤み、手は扉の縁をぎゅっと握っていた。
五条は言葉を失った。
(……これ、完全に――)
彼の脳裏に、あの紅い液体が浮かぶ。
が、潤んだ目で見上げてきた。
「……悟さん……わたし……なんか、おかしくて……」
その声はか細く、震えていて――それでいて、妙に甘く耳に残る。
喉の奥で、五条は小さく息を飲んだ。
「入って、いい?」
尋ねると、は恥ずかしそうに顔を伏せ、こくんと小さく頷いた。
扉が、静かに閉まる。
そして、紅い“余韻”が――
ようやく、その効果を花開かせようとしていた。