【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第1章 「香惑の宵**」
「……さすがに、ちょっと眠くなってきました。そろそろ戻りますね」
がふわっと小さくあくびを漏らしながら立ち上がる。
(効果があったのは、眠気だけか……!)
五条は落胆し、その言葉に素直に頷くしかなかった。
「う、うん。送るよ。……夜道は危ないしね?」
「高専の敷地内ですけど……ありがとうございます」
二人並んで歩く廊下。
五条は横目での様子を窺う。
どこにも「乱れる兆し」なんて、見当たらない。
(くっ……ここまで来て……!)
部屋の前に着くと、はドアの前で振り返る。
「じゃあ……おやすみなさい、悟さん」
「……うん。おやすみ、」
ぱたん、と扉が閉まる音がして、
五条はその場にしばらく棒立ちになった。
(……マジか……)
今日の夜は、あの媚薬でがほんのり頬を染めて、潤んだ瞳で「悟さん……」なんて甘えながら、自分を求めてくる……
そんな最高の夜を妄想していたのに。
(え、何? “おやすみなさい”で終わり??)
がっくりと肩を落としながら、五条はふらふらと自室に向かって歩き出す。
ポケットの中で、小瓶がひんやりと指先に触れた。
虚しさだけが、やけに沁みた。
(……僕も、早く寝よ)
その背中には、“完全不発”の文字が見えるようだった。
***
翌朝。
高専の教室に、五条が顔を出す。
目隠しの奥から、ざっと見渡して――すぐに、眉をひそめた。
(……あれ?)
の定位置に、ぽっかり空席が残っていた。
「おはよー、みんな!」
軽く手を振りながら入ってきた五条に、虎杖たちが顔を上げる。
「おはようございます」
「おはよっ、先生。今日の授業って、実技?」
五条は教壇に立ちながら、さりげなく尋ねた。
「うーん、そうだね。……は?」
伏黒が少しだけ肩をすくめる。
「来てないですね。珍しいな……」
野薔薇が続けた。
「あー、ならさっき連絡あったわよ。“少し具合悪いから休む”って」
五条の背筋に、ぴしりと冷たいものが走った。
(……え? まじか?)
(“体に害はない”って硝子、あれ適当だったんじゃ――)