【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第1章 「香惑の宵**」
廊下を歩きながら、五条はポケットに手を入れた。
指先が触れたのは、あの小瓶。
取り出すと、中の液体がとろりと揺れた。淡い紅色。粘度のある、それっぽい見た目。
媚薬。
硝子はそう言ってた。
単に体温と感度が上がるだけの、ただの“道具”。
それでも、想像は止まらなかった。
に使ったら――どうなるんだろう。
いつもみたいに頑なな顔で、最初は「大丈夫です」なんて言い張るのかもしれない。
でも、きっと体はどんどん火照ってきて、
自分でもどうしたらいいかわからなくなって――
あの子が、自分を見上げて、困ったようにすがってきたら。
無意識に距離を詰めてきて、腕を掴んできたら。
「……悟さん、なんか私の身体、変なんです……」
そんなふうに甘えた声で言われたら、どうする?
……我慢できるわけ、ないよな。
廊下を曲がったところで、ちょうど中庭に続くガラス戸が見えた。
その向こう。
数人の生徒たちの中に――の姿があった。
制服の裾を整えながら、虎杖たちと何か話している。
少し乱れた髪。制服のかすかな汚れ。
どうやら任務帰りらしい。
ぽわんと浮かんだ汗のにおいすら想像できて、
五条の喉が、自然に鳴った。
……今、なら。
ちょうどいい。疲れてる時こそ、体の反応は素直だ。
タイミング的にも、完璧。
ポケットの中で小瓶を弄びながら、
五条はにやりと唇を吊り上げた。
まっすぐに向かって歩き出す――
「五条さん、やっと見つけました!」
背後から飛んできた声に、足が止まる。
振り返ると、息を切らせた伊地知が手を挙げていた。
「出発予定時間過ぎてます!」
「……え、今?」
「はい!早く行きましょう、学長がお待ちです」
「まだ、いいだろ?」
「ダメですッ!」
その瞬間、五条の顔から笑みが消えた。
じっと目隠し越しに伊地知を見つめる。
それだけで、伊地知の肩がびくりと跳ねる。
「……チッ」
小さく舌打ちして、の方に振り返る。
が、もう姿は見えない。
心の中でぶつぶつと文句をこぼしながら、
五条は渋々、伊地知の後を追った。
けれど――頭の中では、さっきのの姿が、しっかりと焼きついていた。