【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第1章 「香惑の宵**」
***
一方その頃。
は、野薔薇と並んで高専の外階段を上っていた。
そのとき、ふと――
ぶわっと、首筋を冷たいものが撫でたような感覚が走る。
「……ん?」
思わず足を止める。
「どした?」
釘崎が不思議そうに振り返る。
「ううん……なんか、寒気がしただけ」
「風邪じゃない?」
「いや、風邪ひいたって感じじゃなくて……」
そう答えながらも、は胸のあたりをそっと押さえた。
理由のわからない、落ち着かなさ。
けれどそれはすぐに、気のせいだろうと流されていった。
このときの彼女は、まだ知らない。
自分が、ある“危険な実験”の、対象になりかけていたことを――。
***
ここ数日間、五条は一度も、と顔を合わせていなかった。
任務、報告、会議。
上層部からの鬱陶しい呼び出し。
くだらない形式の山に、彼の時間は食い潰されていった。
気づけば、小瓶はポケットの底に入れっぱなし。
ほんの少し揺らすだけで液体がとろりと光るそれを見ながら、五条は苛立ちを溜めていく。
(……結局、何もできてないじゃん)
まさか、あれから一度もの姿を見てないとは思わなかった。
顔も、声も、仕草も。
何一つ、摂取できていない。
ほんの冗談だったはずの興味は、手の届かない日々のせいで、
渇きにも似た欲求へと変わっていた。
やっと高専に戻ってきた五条は、夜の職員棟の廊下をだらだらと歩いていた。
疲れてる。腹も減った。
でも一番足りないのは、あの子の――
ふと、廊下の向こう。
自販機の光に照らされた影が、ひとつ。
誰かが背を向け、飲み物を選んでいた。
ゆっくりと振り返るその横顔に、
五条の胸が、一瞬で高鳴る。