【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第1章 「香惑の宵**」
だった。
黒髪が、さらりと肩に流れていた。
上はゆるめのTシャツ、下は素足にショートパンツ。
部屋着に着替えたその姿は、どこか無防備で、
生地越しにほのかに肌の輪郭が浮かぶ。
ペットボトルの水を口元に運んだとき、
小さく喉が上下するのが、遠目でもわかる。
ほんの数秒。
たったそれだけの動きに、
積もりに積もった“欲”が、音を立てて崩れかけた。
五条は、一歩、前に出た。
けれど、声をかける前に――がこちらに気づいた。
「あ……悟さん」
ぴたりと止まる彼女の目。
一瞬、驚いたようだったが――
次に浮かんだのは、心底ほっとしたような、笑顔だった。
「おかえりなさい」
たったそれだけ。
それだけなのに、五条の奥で何かが決壊した。
(……ダメだって。それは反則)
そう思いながらも、彼は自然に笑みを浮かべていた。
目の前の彼女に、反応しすぎないように――まるで、自分に言い聞かせるように。
「なんか、久しぶりだね」
さりげない声。けれど、そこに込めた感情は隠しきれない。
は少し驚いたように瞬きをして、
それから、気まずそうに目をそらした。
「……そうですね。悟さん、忙しそうでしたから」
「僕がいなくて……寂しかった?」
冗談めかして問うと、の肩がぴくりと揺れた。
目を見ないまま、小さな声で――
「……そんなこと、ないです」
ほんのりと耳まで赤くなっているのが、なんともわかりやすい。
五条はポケットに手を入れた。
指先が、あの小瓶に触れる。
(……この薬、使ったら)
(は、僕に会えなくて寂しかったって――素直に、そう言うのかな)
喉の奥が、かすかに鳴った。
再燃しはじめた“計画”が、確実に現実味を帯びていくのを感じながら、五条は一歩、彼女に近づいた。