【呪術廻戦/五条悟R18】── 花冠の傍らで ──
第5章 「2025誕生日記念短編 魔女は蒼に恋を包む」
画面に返事を打ち込み、送信したそのとき――
「五条さーん!」
……えっ? 先生?
突然外から誰かの声がして、手が止まる。
耳が勝手にそっちを探してしまう。
息をひそめて、キッチン奥の小さな窓へ近寄る。
細長いガラスの隙間から、玄関前がわずかに見えた。
黒い制服に、目隠し。
間違えるわけがない。先生だ⋯⋯!
すると、一人の女性が先生の元に駆け寄っていった。
長い茶色の綺麗な髪がふわりと揺れる。
(あの人、たしか……最近入った補助監督さん……)
綺麗で優しくて、人気があるって野薔薇ちゃんが言ってたな。
その彼女の手には、小さな可愛らしい包みが。
それを差し出すと、先生が――
(……笑ってる)
確かに見えた。
先生が微笑んで受け取ると、彼女の頬がぱっと赤くなった。
そして、先生の目をまっすぐに見て何か話している。
あ、これって……
声は聞こえないけど、空気だけで伝わってくる。
(……あの人、先生のこと好きなのかな)
胸がぎゅっと締めつけられる。
もうそれ以上見ていられなくて、窓から目を逸らした。
(……告白とか?)
(いや、先生の誕生日だし……プレゼントを渡しただけかも)
(でも、先生笑って受け取ってた……嬉しそうに……)
まぶたの裏に焼きついたその笑顔が、何度もちらつく。
(もし……あれが“好きです”とかだったら……)
(……先生、なんて答えたんだろ……)
考えたくないのに、勝手に想像が膨らむ。
(断ってくれた……よね?)
(でも……もし、もし、先生が“ありがとう”って笑って……)
(……“うん”って言ってたら……?)
(やだ……そんなの……)
その瞬間の先生を想像しただけで、視界がじわっと滲んだ。
もやもやした感情を吐き出すように、深呼吸をひとつ。
今は考えても仕方ない。
(ケーキ、作ろ……)
生地を型に流し込み、オーブンへ。
冷蔵庫から生クリームを取り出して、ボウルに移す。
泡立てながらも、手がわずかに震えていた。
先生が誰にどんな顔を向けたって、私が文句を言う権利なんてない。
でも。
でも――
せめて今日だけは……
私が一番に、先生を笑顔にしたかったな。
そのとき、焼き上がりを知らせる電子音がキッチンに響いた。