第12章 ・克己(注…R18)
「……勝手にしろ。次はもっとマシな男を掴まえるんだな」
突き放す様な言葉。
だがリリムは、そんな彼を暫く見詰めて、微笑んだ。
「うふふ……貴方みたいな『マシな男』……この世界に二人といないわよ」
ゾロは、フン、と鼻で笑うだけ。
だが、リリムは言った。
「……ねえ、貴方って、本当に強くて……優しいのね」
「あぁ?……優しくねえの、判っただろ……おれはただ……面倒な女に、付き合ってヤっただけだぜ……」
「うふふ……そう言うのを『優しい』って言うの」
ゾロは何も返さず、何時もの様に頭の後ろに両手を組んで、目を閉じた。
リリムの足元から淡い光が滲み出し、羽が揺れる。
窓が静かに開き、風が香りを運ぶ。
花の様な甘い匂い……最初に彼女が現れた時と同じ、あの匂い。
(……ありがとう、魔王様……貴方の『熱』……ずっと、忘れないわ)
彼女の思念が届いた瞬間、ゾロは静かに目を開ける。
思わず、顔が綻んだ。
開け放たれたままの窓。
微風に揺れるカーテンの隙間から、光の粒が舞い上がって行く。
リリムの姿は、もう何処にもなかった。
ゾロは自分の右腕に残る、彼女の重みと体温を確認する様に、ゆっくりと腕を上げ拳を握った。
(……夢にしちゃあ、少し体が重過ぎるな……)
ゾロは思わず、ふっと、笑った。
一年振りに抱いた女は……淫魔リリム。
それは、愛でも恋でもない、一夜限りの奇妙な縁。
互いに名も訊かぬまま、名乗らぬまま……。
だがその不器用な情交が、彼女の心を救った事だけは、確かだった。
「……しっかし……変な女だったな……」
何時になく、穏やかな表情。
きっと何処かで幸せを掴むであろう『変な女』の為に……ゾロは束の間の眠りに就いた。
窓の外は徐々に明るく……小鳥達が囀り、爽やかに夜明けを知らせていた。